ヘリウムエスケープバルブって何?
こんにちは。BROOCH時計修理工房神田店です。今回は、ダイバーズウォッチの機能のひとつ、ヘリウムエスケープバルブについてご紹介いたします。ヘリウムエスケープバルブとは、名前の通り時計に入ったヘリウムを時計の外に出す機能です。なぜヘリウムガスが時計内部に入ってしまうのか、なぜヘリウムガスを外に放出しなければならないのか、なぜダイバーズウォッチだけについているのか、今回ご紹介させていただきます。
潜水の種類
まず初めに、潜水の種類について少し勉強をしましょう。
スキンダイビング
空気ボンベを使用しない潜水をスキンダイビングと呼びます。これに耐えうる時計が、「日常生活用強化防水」と呼ばれる10気圧・20気圧防水の時計です。
スキューバ潜水
空気ボンベを使用するスキューバダイビングなどです。こちらの潜水に対応する時計は、「1種潜水時計」と呼ばれ、水深100~200mまでの耐圧性と長時間潜水に耐えられます。
飽和潜水
飽和潜水は、100mを超える「深海への潜水」で行われる潜水方式のことです。船上に設置されている加圧・減圧可能なタンク(居住空間)に入り、 カプセル内にて指定の水圧に耐えられる状態になるように、時間をかけて酸素とヘリウムの混合ガスを人体に溶け込ませた後(飽和状態にして)深海へ出て作業を行います。これに耐えうる時計は、「2次潜水時計」と呼ばれ、潜水時間、減圧時間を測定するのに必要な、逆回転防止機能付きベゼルやヘリウム対策の機能を持っています。ヘリウムエスケープバルブが必要になるのがこちらの潜水になります。
なぜ時計内にヘリウムガスが入るの?
それは飽和潜水を行う前に、酸素とヘリウムの混合ガスを人体に溶け込ませ体を慣らす(ガスを溶け込ませる)のですが、ヘリウムはとても小さい分子ですのでその時に時計の隙間から内部に入り込んでしまいます。高圧状態で入り込んでいるのでこの時のヘリウムはとても高圧です。
なぜヘリウムガスを使用するの?
空気は、窒素が約8割含んでおります。実はこの窒素が潜水には向いていない為、体に悪影響が及ばないヘリウムが使用されています。一般的に深度40m以上になると窒素は麻酔作用を引き起します。これを「窒素酔い」と呼び、お酒に酔ったような状態になります。そうなると判断力が著しく低下したり方向感覚を失うといった症状が起こり、極めて危険です。そのため、深く潜る際には、窒素に替わる気体を混合させたガスを使用しなければなりません。そこで使われるのが、へリウムガスです。高価であったり、聞きづらい声になったりといった欠点はあるものの、安全性が高いので酸素中毒を引き起こさないように配合させて使用します。
なぜヘリウムエスケープバルブが必要?
先ほどもお話したように、潜水前には体にガスを溶け込ませる必要があります。逆に浮上する時には水圧が小さくなっていくので体に溶け込んだガス排出しなければなりません。排出方法は、減圧チャンバーという容器に入って長い時間をかけて体に溶け込んだガスを排出します。ですが、時計の奥まで入り込んだヘリウムガスは減圧中に抜ききることができず、ケース内で膨張したヘリウムガスが逃げ場を失って風防を破損させてしまいます。減圧のペースにヘリウムガスの排出スピードが間に合わないことが原因です。地上深く潜る際には入り込んだヘリウムガスを外に逃がす仕組みが必要になり、その為に作られたのがヘリウムエスケープバルブです。