脱進機(Escapement)
機械式時計において動力源で発生した力を一定のリズムで解放していく機構の総称。
懐中時計や腕時計等の携帯時計の場合はゼンマイを動力源とする。巻き締められたゼンマイが解ける際には歯車のみだと一気に開放してしまうが、脱進機を利用することによって、その力を少しずつ一定のリズムになる様に解放していく。
現代のほとんどの機械式時計に採用されているスイスレバー脱進機おいては、「ガンギ車」「アンクル」「テンプ」によって構成される。
脱進機そのもののの発明にはかなり古い、機械式のものとしては14世紀にはバージ脱進機を用いた時計の記録がある。
機械式時計には長らくバージ脱進機が主流であったが、その後シリンダー脱進機やデュープレックス脱進機、デテント脱進機、そして現代も使われているレバー脱進機等、いくつもの脱進機が当時の時計師達により開発された。
あまり精度の安定しなかったバージ脱進機に対して、上記の後発の脱進機は大きく精度が向上したが、それぞれ耐久性や製造コストが高いといった問題があり、20世紀の中頃にはほぼ全ての機械式時計がスイスレバー脱進機を採用していた。
そしてスイスレバー脱進機一辺倒だった機械式時計の脱進機だが、ほぼ1世紀ぶりにジョージ・ダニエルズによって1974年にコーアクシャル脱進機という新しい脱進機が開発された。
この脱進機の優れたところはその精度もさることながら、機械式時計の宿命であるオーバーホール(分解洗浄)を通常4~5年に一回必要なところ、10年に1度でいいとまで言われるところである。
3つのツメ石を持つアンクルや、2つのガンギ車が用いられるのが特徴で摩耗が少なく、注油がほぼ不要といわれている。ガンギ一枚当たりの負担が少なれば当然壊れにくくなるなるため、オーバーホールの間隔も長くなる。
下の写真は、3つの車が重なったコーアクシャル脱進機。
このように脱進機とはまさに時計の心臓そのものである。