前回の【なぜ定期的にオーバーホールが必要なの?】というトピックに加えて今回は、具体的にオーバーホールでは何をしているのかについてお話したいと思います。私がまだオーバーホールの知識が無かった頃、「なんでこんなに値段高いの!?」と思ったのですが、内容を知ると納得しました(汗)。皆様にも少しでもオーバーホールの内容をシェアする事で安心してご自身の時計をオーバーホールに出して頂けたらと思います。
オーバーホールという作業は分解掃除とも言われていて主に3つのステップに分けることができます。①分解、②洗浄、③組み立て&注油、です。これらは基本的に機械式もクオーツも同様の作業工程になります。
①分解
まず初めにムーブメントと呼ばれる時計内部の機械をひとつひとつのパーツに分解していきます。クオーツ式ムーブメントは大体50~80個のパーツ、機械式時計は100個以上のパーツから成り立っており、複雑な機構を持つムーブは更にパーツが増えていきます。1mmを下回るパーツも中にはあるため、オーバーホールは時計師と呼ばれる技術者が行います。不具合が報告されている時計はこの分解作業の中でどこに異変があるのかを確認しながら、ひとつひとつのパーツ点検を行っていきます。摩耗が激しいパーツや、破損してしまっているパーツは交換又は新しく作り直します。
②洗浄
(阿佐ヶ谷店に勤める時計師はブライトリングで経験を積んだ一級時計修理技能士です)
次に行う作業は洗浄です。古い油が乾燥し各パーツに固着した状態のため、それらを時計用の洗浄機を用いて洗います。この時に水は使わずベンジンなどの特別な液体を用いて洗浄します。ベンジンは油汚れを落とすのに非常に適していて、また揮発性が高いため、パーツが錆びることなく作業を行えます。また自動洗浄機だけでは落ちない汚れがある場合もあるため掃除木などを使いホゾ穴の汚れもしっかりと落としていきます。この洗浄作業は非常に重要で、ここで落ち切らない汚れが残ったままになってしまうと、動力が歯車へと効率良く伝わらず振り角が出ないなどの症状が後に出てしまいます。
③組み立て&注油
(写真:ツメ石にもわずかな量を注油)
最後に時計を元の状態に組み立てていくのですが、この時に注油を同時進行で行います。ここで使われるオイルには4~6種類程あり、軽い油から重い油をそれぞれ最適な場所にごくわずかな量を乗せていきます。ちなみに時計に使われるオイルは2mlで1万円前後と非常に高価です。
例えば下の写真に写っているのはテンプの受け石なのですが、直径1mmもないとても小さな石です。ここにオイルが乗っている状態なのですが、この量が少しでも違ってくると時計が安定して精度を保てなくなります。このように、ひとつひとつの作業は非常に細かく、高い技術力を要するため専門知識を持つ時計師が行います。
このように全ての工程を終えたら、ムーブメントをタイムグラファーという精度を計る器械に乗せ、時計の日差を調整して点検作業に入ります。オーバーホールという作業は単純な分解洗浄ではなく、そこには技術者の経験が詰め込まれています。
大切な腕時計をお持ちで長く使いたいと思っていましたら、定期的にオーバーホールに出して頂く事をお勧めいたします。